Vol.7「出逢い」

 

医者の紹介から数日が経っていた。

我々使い魔にとっては医者から病名宣告された事よりも、魔女に遭う事の方がよほど気持ちの揺れるものなのだ。
腹を決めたものの、やはり躊躇する時間があったのは確かだ。

これまで様々な魔女と出逢っては来たが、それはあくまでも旅の途中。
主従関係などない一時の触れ合いだったし、その使い魔とも私の力や技を伝える事で上手く交流して来れた。

しかし、今回は違う。
自分の生殺与奪に関わる部分を魔女に託す事になるやも知れないのだ。
本来であれば、そういった事は盟約を結び主従関係を持った魔女がなすべき事なのだが、今の私には紹介された魔女に託す他ない。
何より、そんな大切な事を自分の主人公に頼もうという「はぐれ使い魔」風情を元いる使い魔が受け入れる筈はない。

魔女が持つ使い魔は通常1匹となっている。
盟約により魔力を与えるため、それ以上の使い魔を持つにはかなりの力がなければならない。
もしも1匹を持つ力しかなければ、元からいる使い魔はその魔力を分け与える事で己の力が弱くなってしまい身の危険が付きまとう事になる。
自分の居場所を守るために必死になるだろう。下手をすればその場で命のやりとりをするハメになるかも知れない。

そんな事を考えながら歩くうちにとうとうその館の門前まで来てしまった。
港町からはそこそこの距離があったが、色々と考えているうちにいつの間にかそこに立っていた。

ポケットから懐中時計を取り出してみると、3時前。
宿を出たのは1時頃だったのでおおよそ2時間歩いた事になる。

時計のふたを閉じて門を見上げるとフクロウのレリーフと共に「占い 賢者の石」と書かれた文字があった。
私には生まれの地、ノルウェーの北サーミ語で書いてある様に見えるが、恐らくこれは見る者の使う言葉に翻訳される形で見える魔法が掛けられているのだと思った。
そういった所はここに住む魔女のもてなしの心の現れだろうと思い、少し安堵を覚えた。

そこからさらに奥に見える館は屋敷というよりは小さな城といった感じだろうか?
門から覗き込むと左右には草花の咲くよく手入れされた庭園があり、館まではそれなりの距離がある。

こんな立派な館にはどんな魔女が住んでいるのだろう?
さぞや名の知れた魔女に違いない。

そんな事をぼんやり考えていると、ふいに周囲が影に覆われた。
驚いて見上げると、そこには巨大な生き物がいた。
その者は大きな翼を羽ばたかせながら私の頭上へと舞い降りるところだった。

あまりに突然の事で驚くあまりその場から動く事ができずにいると門の飾りだと思っていたレリーフのフクロウがこちらを見て叫んだ。

「そこにいると危ないぞ!すぐに避けるんだ!!」

私はその声で我に返り、四つ足になって素早く開きかけた門の内側へと駆け込んだ。

間一髪といった所か?
背中で重そうな地響きを立てて先程見た生き物が着地したのが分かった。

振り返ると背中に人間を乗せた翼竜が息を荒くこちらを見ていた。

「ごめんごめーん!」

翼竜の背中から降りながら、よく通る明るい大きな声でその人間は言った。
独特な風貌からしてその人間が魔女である事は疑う余地がなかった。

「あんまり外に出ないから乗り馴れなくてね。あなたがコーネル先生が言ってた猫さん?」

その魔女は気さくな笑顔を投げかけて革の手袋を外しながら私に近づいて来た。
魔女の移動手段と言えば帚がよく知られているが、稀に翼竜を操る魔女がいる。
翼竜を扱える魔女とは大したものだ。力が強くなければ翼竜を従える事などできはしない。
かくいう私の主になるはずであった魔女も広大な森を巡るために翼竜を使っていた。
思った通り彼女は偉大な魔女かも知れない。

私はひざまずいて頭を垂れながら言った。

「お初にお目にかかります。私は北欧の国ノルウェーから参りました旅の者でソルと申します。」

「そう。遠くからよくいらっしゃいましたね。私はこの占いの館の主、レオノーラ。あなたを歓迎します。
こんなところでご挨拶するなんて忙しなくてごめんなさいね。どうぞ館の方へいらしてください。」

魔女は前屈みになって手を差し出し、私はその手を取って立ち上がった。
その表情から見て取れる第一印象は良かった様子だ。
同時に彼女から感じ取れるオーラの様なものには暖かさを感じた。

私は明るい雰囲気で歓迎された事に再び安堵した。

ふと視線を感じて門を見ると向こう側にあったレリーフのフクロウがこちら側に移動して来ていて大きな目でギョロリと見ていた。

「声の主は君だね?私はソル。さっきはありがとう。助かったよ。」
「な〜に、問題ない。客人を守るのも門番の仕事だからな。僕には名などない。ただの門番のフクロウさ。」

そう言うとフクロウは元のレリーフへと戻った。
門番のフクロウに一礼すると館に向けて先を歩く魔女の後を足早に追った。

 

今夜も館の扉が開かれる・・・。

その占いの館の名は「賢者の石」。

 

興味を持たれた方もそうでない方も、一度「占い 賢者の石」を訪れてみて欲しい。

きっと貴方にも光芒が降りて来るはず・・・。

 

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